チューリップ惨殺事件 ~犯人は苦しんでいるはず~

漁士力也(仮名)が越してきてから、アパートがどんどん不潔になり、治安も乱れてきました。
もう30過ぎの男が、自分の台所のゴミを敷地内の溝に捨てたり、駐車場で何十本のタバコをポイ捨てるホタル族をしたりと、もうヤンキーでしたね。
さらに、明け方にオートバイの改造マフラーの音で、住人みんなを叩き起こすのですから、住んでもう3番目に古い住人の私はキレました。

ところが思わぬ出来事があり、力也が私を年上の女性として意識しはじめたのです。これを利用しない手はありません。サラッと話す、じっくり話す……と、いろいろな表現で、力也の素行を改良しようと試みたのですが……ダメでした。察しの悪い子だったのでしょう。あれではいつも仕事に困って当然です。

タバコのポイ捨てで、とうとう喧嘩になりました。だって毎日毎日、黙って掃除をしているのが私だと知っていながら、ポイ捨てが悪いことだという認識が麻痺していたのか、住人もみんなあれを嫌がり、部屋をノックして注意したところ……
『オレの吸殻っていう証拠がないやろ』
だとさ……。これは自白しているも同然です。やはり察しの悪いおつむのようですね。

こうなることを予測していた私は、実は吸殻を小さなジップパックに、ピンセットで拾ってためていました。発見時刻のメモも入れてです。火災になったらDNA鑑定で犯人が分かりますから……。

警察の協力もありました。そしてとうとう、力也は夜逃げのように、アパートから出て行きました。

八つ当たりでしょうか。最後に被害を被った、首を折られたチューリップたちは、葉っぱを育てて球根を太らせます。そして秋には最良の保存方法をしておき、来年の春には大輪で咲かせます。